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広島高等裁判所 昭和51年(ネ)264号 判決 1977年3月16日

控訴人 第一商事株式会社

右代表者代表取締役 東谷菊次郎

右訴訟代理人弁護士 福田関男

被控訴人 有限会社 山栄

右代表者代表取締役 宋柱日

主文

原判決を次のとおり変更する。山口地方裁判所下関支部昭和四九年(ケ)第五八号不動産競売事件について、同支部が作成した売却代金交付表のうち、控訴人に対する交付金額六七七万八一五六円とあるのを、控訴人に対する交付金額五七七万三七九四円、被控訴人に対する交付金額一〇〇万四三六二円と変更する。

被控訴人のその余の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審を通じこれを三分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

二  主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(但し、末尾添付物件目録中「豊浦郡」とあるのを「豊浦郡豊浦町」と訂正する。)から、これを引用する。

(控訴人の主張)

仮に、第三八号事件の配当が違法であって、その誤りを第五八号事件の配当において修正すべきものとしても、民法三九二条の趣旨にしたがって計算すると次のとおりとなる。

1、第三八号事件の配当すべき金額 一九七万三二三三円

第五八号事件の配当すべき金額    六七七万八一五六円

右合計               八七五万一三八九円

2、第三八号事件の代金交付時における順位第五番の抵当権(以下本件共同抵当権という。)の被担保債権額 六二一万九八六三円(内訳)元本四五〇万円、損害金一七一万九八六三円

3、第三八号事件において本件共同抵当権の被担保債権に配当すべき金額 一四〇万二五四七円

6,219,863円×1,973,233円/8,751,389円=1,402,547円

4、第五八号事件の代金交付時における本件共同抵当権の被担保債権額 五八二万九六〇九円

(内訳)元本             四五〇万円

損害金(第三八号事件配当時までの分、残)

からを差引いた額  三一万七三一六円

同(その後の分)       一〇一万二二九三円

5、第五八号事件の代金交付額

被控訴人            九四万八五四七円

控訴人            五八二万九六〇九円

三  証拠≪省略≫

理由

一  共同抵当制度の目的は、共同抵当権者(民法三九二条一項にいう債権者)が数個の不動産を一括してその担保価値を把握し、個々の不動産の価格、価格変動、競売の難易に煩わされることなく、そのいずれからでも総和が被担保債権額に達するまで優先弁済を受けるにある。この目的からすると、共同抵当権者にとって抵当不動産全体についての同時配当をめざすか、あるいは任意の順序で異時配当を求めるかを自由に選択し得ることは(もっとも、他の債権者らからその抵当権等に基いて競売が求められ、共同抵当権についても右競売手続によることを余儀なくされるのは格別)、その権利の本質に根ざす権能ともいうべきである(民法三七二条、二九六条、三九二条二項前段)。

そして、共同抵当権者の右利益の確保を前提として、各抵当不動産の所有者及び同不動産上の後順位抵当権者相互間の利害を適切に調整しなければ、これらの者の間の衡平を害するばかりでなく、先順位の共同抵当が存する場合には各不動産の所有者あるいは後順位抵当権者にとって共同抵当の被担保債権全額を控除した残額のみを自己の把握する価値として評価するほかないこととなり、抵当不動産すべてにつき担保価値の効率的利用を不必要に妨げる結果となる。

そこで、共同抵当の目的不動産については、共同抵当によって優先把握されている担保価値は、その被担保債権額を各不動産の価額に応ずる割付額とし、不動産それぞれの価額から右割付額を控除した残額は、後順位抵当権者あるいは所有者がこれを把握し得るものと構成するのが民法三九二条の法意である。これを別の面からいうと、後順位抵当権者がその設定時において一定の担保価値を把握し、その地位が確定された以上、先順位共同抵当権者がどのような態度に出ようとも、この後順位抵当権者の地位は、共同抵当につきあらかじめなんらの処分もなしに全額の同時配当がなされた場合に比し、不利となってはならないこととなる。

もとより、民法三九二条二項の後順位抵当権者の代位は、同法五〇〇条、五〇一条による弁済者の代位に優先し得ないのであるから、債務者所有の甲不動産上の後順位抵当権者にとって、他の共同抵当物件たる乙不動産がもともと物上保証人に属する場合や甲不動産上の後順位抵当権設定時までに乙不動産が第三取得者に移転していた場合には右後順位抵当権者は乙不動産につき代位することができないのであって、この場合後順位抵当権者の地位が前述のように確保されるべき限りでない(最高裁判所昭和四四年七月三日判決・民集二三巻一二九七頁)ことは別論である。

以上に述べたところからすると、共同抵当権者とその目的不動産の一部に対する後順位抵当権者との関係については、債権者が債務者所有の甲乙不動産に共同抵当権を有し、その後甲不動産に次順位の抵当権が設定された場合、共同抵当権者が甲不動産についてのみ抵当権を実行したときは、共同抵当権者は甲不動産の代価から債権全額の弁済を受けることができるが(民法三九二条二項前段)、これに対応して甲不動産の次順位の抵当権者は共同抵当権者に代位して乙不動産につき抵当権を行なうことができるものとされており(同項後段)、したがって、共同抵当権者が甲不動産に対する抵当権の実行より前に乙不動産上の抵当権を放棄しこれを消滅させた場合には、放棄がなかったならば甲不動産上の次順位の抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位できた限度において右次順位の抵当権者に優先することができないと解すべきである(前掲最高裁判所判決参照)。

右共同抵当権者が、甲不動産の競売に先立ってなされた乙不動産の競売による代金交付に際し、右共同抵当権ないしその順位を主張しない等により、その被担保債権の満足を受けなかったときも同様であって、この場合共同抵当権者がたまたま乙不動産につき別に次順位の抵当権を有しその被担保債権につき配当を受けたとしても右結論に影響はない。

二  そこで、当事者間に争いのない請求原因1ないし9の事実に基いて検討する。

(一)  第三八号事件について控訴人が本件共同抵当権の被担保債権につきその順位を主張し債権額計算書を提出していたとすれば、次のとおりとなる。

第三八号事件の競売代金六八五万円のうち、競売手続費用、先順位債権者への交付額を除いた一九七万三二三三円①は、控訴人の本件共同抵当権の被担保債権(元金四五〇万円とこれに対する昭和四八年五月一三日から昭和四九年八月二〇日((代金交付期日))まで年三割の割合による約定損害金一七一万九八六三円②)のうち、損害金全額と元金中二五万三三七〇円③に充当されることとなる。

第五八号事件の競売代金七四七万円のうち、競売手続費用二〇万一三二四円、先順位債権者黒井農業協同組合の受交付分四九万〇五二〇円を除いた六七七万八一五六円④のうち、本件共同抵当権の被担保債権に充てられるべきものは、残元金四二四万六六三〇円(当初元金四五〇万円から前記③の金額を差引いたもの)及びこれに対する昭和四九年八月二一日(第三八号事件代金交付期日の翌日)から昭和五〇年五月二一日(第五八号事件代金交付期日)まで年三割の割合による約定損害金九五万六三六四円⑤となる。

ところで、控訴人の本件共同抵当権の被担保債権のうち元金四五〇万円と第三八号事件代金交付期日までの損害金一七一万九八六三円②の合計六二一万九八六三円⑥(右交付期日の翌日以降の損害金((前記⑤))は、第五八号事件の目的不動産のみの負担と解せられるのでこれを含まない。)を目的不動産の価額(競売代金中、競売手続費用、先順位債権者に交付される額を控除したもの)に応じて配分すると、第三八号事件の目的不動産(原判決末尾添付物件目録第一の各物件)の価額は一九七万三二三三円(前記①)、第五八号事件の目的不動産(同目録第二の各物件)の価額は六七七万八一五六円(前記④)、その和は八七五万一三八九円⑦であるから、前者の負担分は一四〇万二四三三円⑧(6,219,863⑥×1,973,233①/8,751,389⑦)後者の負担分は四八一万七四三〇円(⑦から⑧を差引いたもの、但し、ほかに九五万六三六四円((前記⑤))があり、その合計は五七七万三七九四円⑨となる。)となる。

しかるに、第三八号事件の目的不動産につき順位第六番の抵当権、第五八号事件の目的不動産につき順位第七番の抵当権がそれぞれ設定された時、これら不動産はなお本件共同抵当権設定時の所有者でその債務者である尾形馨ないしはその相続人尾形軍治の所有として登記されていたことは≪証拠省略≫により明らかである。してみると、控訴人は右順位第六番の抵当権につき第五八号事件の目的不動産に対し、被控訴人は右順位第七番の抵当権につき第三八号事件の目的不動産に対し、それぞれ民法三九二条にしたがい控訴人の本件共同抵当権に代位し得る地位にあるということができる。

したがって、この場合、第五八号事件の目的不動産は、控訴人の本件共同抵当権の被担保債権中損害金とも五七七万三七九四円(前記⑨)を負担し(右金額に満つるまで、すなわち、本件共同抵当権の被担保債権が第五八号事件の競売代金から受ける額五二〇万二九九四円((残元金四二四万六六三〇円と損害金⑤の和))を超える五七万〇八〇〇円につき、控訴人が第三八号事件の目的不動産上の順位第六番の抵当権者として代位する。)、以上は控訴人に、その余、すなわち、六七七万八一五六円④から五七七万三七九四円⑨を差引いた一〇〇万四三六二円は被控訴人(順位第七番の抵当権者)に帰することとなる。

(二)  第三八号事件の代金交付に関しては、控訴人が共同抵当権ないしその順位の主張を放棄し、ために次順位(第六番)の抵当債権につき代金交付があったとみるべきか、あるいは、右代金は単に控訴人に交付されたに過ぎず、これが本件共同抵当権の被担保債権に充当されるか否かは別に決すべきところとみるべきかは見解の分れ得るところであろうけれども、いずれにしても、第五八号事件の代金交付における本件共同抵当権者(控訴人)と後順位債権者(被控訴人)との関係では、控訴人が優先弁済を主張し得るのは、(一)に述べた範囲に限られるとしなければならない。

(三)  してみると、第五八号事件の競売代金から当事者双方が交付を受けるべき金額は、(一)の末尾に記載したのと同一額、すなわち、控訴人(本件共同抵当権者)が五七七万三七九四円、被控訴人(後順位―第七番―抵当権者)が一〇〇万四三六二円である。

三  以上のとおりであるから、第五八号事件の売却代金交付表は、右に述べたとおりに変更すべきであって、被控訴人の本訴請求は右限度において認容し、その余は棄却されるべきである。

よって、右趣旨にしたがい原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 高山晨 下江一成)

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